AI時代の脆弱性研究:Mythosを読み解く
Pwn2Own優勝者Thanh Doとともに、OS、ハイパーバイザー、ブラウザーにおけるゼロデイ脆弱性の自動発見を振り返ります。
AIとサイバーセキュリティ:Mythosを読み解く
2026年4月23日、Shiba AIはセキュリティ研究者Thanh DoをAdegawa Theatreに招き、機械学習が情報セキュリティの実務にどのような変化をもたらすかを考えるセミナーを開催しました。「Vulnerability Research in the Age of AI: Deconstructing Mythos」と題した講演では、攻撃手順の自動化における最先端AIの実用性を検討し、過度な期待にとらわれず、自律的なネットワーク探索の限界を整理しました。
図1:ハイパーバイザーとOSの脆弱性研究について最新の知見を紹介するThanh Do。
脆弱性研究の技術と経済的背景
Thanhはまず、ソフトウェアの脆弱性を発見する仕事の経済的な背景を説明しました。iOSやAndroidなどのプラットフォームでは、重大な脆弱性を悪用するエクスプロイト1件に500万〜700万米ドルの価値が付くこともあり、調査を担う専門家の時間は貴重な資源です。
従来の調査は、コードを手作業で1行ずつ読むか、誤検知が多く処理が滞りやすい総当たりの自動テストに頼るかという、時間のかかる選択を迫られてきました。「十分な人数でコードを見ればバグは見つけやすくなる」という考え方にも疑問を投げかけました。現在の重要なシステムはすでに綿密な検証を受けており、見つけやすいバグは取り除かれています。残るのは、最近OpenBSDで修正された27年前から存在していたバグのように、何十年も隠れていた欠陥です。
AI時代への移行とMythos
講演の中心は、高度な大規模言語モデルを実際のコードベースに適用すると何が起きるかでした。Thanhは、Anthropicの未公開モデルMythos Previewに関する最近のテストを紹介しました。指示を受けると、主要OSやブラウザーの脆弱性発見と悪用に高い能力を発揮するというものです。こうした能力はハッキングを明示的に訓練した結果ではなく、コーディングや高度な推論、自律的に作業を進める能力の向上に伴って生じたと説明されました。こうしたモデルを用いた評価は成果を上げており、例えばFirefox 150の更新では、このAIとの共同評価で指摘された271件の脆弱性が修正されたと紹介されました。
図2:芝浦工業大学のAdegawa Theatreで撮影した集合写真。
自律性の限界
一方で、ThanhはAIがすぐに人間のセキュリティチームを置き換えるわけではないと強調しました。最新のセキュリティ更新を適用し厳重に保護したシステムに対しては、Mythosが新しいエクスプロイトを発見・作成できなかったと報告しました。
長いタスクの途中でAIエージェントが混乱しやすいことも課題です。実際の対話記録から、システムを壊さないよう、人間の研究者が繰り返し介入し、誤りを修正して作業を軌道に戻す必要があることが示されました。繰り返しの多い総当たりの作業ではAIは有用な支援役ですが、全く新しい種類の脆弱性の発見には依然として人間の創造性が必要だというのが、講演の結論でした。
参加者同士の交流
芝浦工業大学や東京各地から、学生、システムエンジニア、AI安全性研究者が集まりました。
講演後は交流会を開催し、軽食や飲み物を囲んで、自律ソフトウェアの安全性や今後のセキュリティツールについて、多様な背景を持つ参加者が意見を交わしました。
図3:交流会で意見を交わす参加者とShiba AIのメンバー。
現場の知見を共有してくださったThanh Doと、開催を支えてくださった運営メンバーに感謝申し上げます。